コンクリートのひび割れ(コンクリートクラック) 有害なひび割れとは?
日本のコンクリートに関する知識、技術の普及発展に努めている
日本コンクリート工業会という公益社団法人があります。
コンクリート技術者の知識、技術の向上を図るため「コンクリート主任技士」、
「コンクリート技士」および「コンクリート診断士」の試験を毎年実施し、
これらに合格した一定水準以上の知識を持った有資格者が
生コン工場や建設現場などで活躍しています。
その日本コンクリート工業会が発行しているコンクリート診断技術テキストに
書かれているコンクリートのひび割れについての基本的なことを
ご紹介します。
(日本建築学会及び日本コンクリート工業会は’ひび割れ’という単語を使っているため本コラムでもクラックは使わず、’ひび割れ’で統一します。)
コンクリートの変状は
大きく3つに別けることができます
日本コンクリート工業会はコンクリートの変状を以下の3つに大別して、
コンクリートの劣化診断や分析・評価の方法あるいは修繕・復旧の方法などの
技術指導を行っています。
A初期欠陥
①豆板
②コールドジョイント
③内部欠陥
④砂すじ
⑤表面気泡
B経年劣化
①ひび割れ・浮き・剥落
②錆汁
③エフロレッセンス
④汚れ(変色)
⑤すり減り
C構造的変状
①たわみ
②変形
③振動
コンクリートのひび割れは経年劣化の一つに分類されています。
ひび割れの無いコンクリートを作ることは可能か?
「コンクリートは本質的に脆性材料であり、
鉄筋コンクリート構造物のひび割れは宿命的なものと考えられる。
現状の技術では、ひび割れの発生を完全に防止することは非常に困難である。」(以上、コンクリート工業会発行「コンクリート診断技術テキスト」より抜粋)
としています。さらに、
「コンクリートのひび割れはすべてが問題というわけではない。
構造物にもたらす障害によって有害なものと無害なものに区別される。」
(以上、コンクリート診断技術テキストより抜粋)
としていて、その理由は以下の通りです。
ひび割れの発生原因とパターン
日本コンクリート工業会はひび割れの発生原因を表のように整理し、
そのひび割れの表れ方をパターン図を使いわかりやすく説明しています。
ひび割れの発生原因は、
Aコンクリートの材料・配合
B施工
C使用環境
D構造・外力
があり、さらにこれらが数種組み合わさることで、
ひび割れの発生原因は複雑に絡み合うことがわかります。
耐久性上、性能低下の原因となるひび割れ
日本コンクリート工業会は、
鉄筋コンクリートに生じる劣化現象を
コンクリート自体の劣化と鉄筋の腐食に分けて、下表にように整理しています。
ひび割れはコンクリートの劣化現象になるばかりでなく、
鉄筋腐食の原因にもなります。
一方、中性化や塩害によって生じた鉄筋腐食は
ひび割れの原因になるとも示しています。
耐久性の面で有害となるひび割れは、
鉄筋腐食を引き起こすあるいはコンクリート自体の劣化により
構造物の安全性の低下につながるひび割れであるとしています。
日本コンクリート工業会が定める有害なひび割れとは・・
日本建築学会は、
鉄筋コンクリートに生じる劣化現象をコンクリート自体の劣化と鉄筋の腐食に
分けて下表のように整理しています。
1.鉄筋腐食が進行した結果、生じたひび割れ(鉄筋腐食先行型)
2.鉄筋腐食を促進させる原因となるひび割れ(ひび割れ先行型)
3.コンクリート自体の劣化を表す進行性のひび割れ(劣化ひび割れ)
1.と2.は鉄筋腐食が先か、ひび割れが先かの違いはありますが、
いずれも鉄筋腐食が構造物の安全性の低下につながると
考えられるひび割れであります。
また3.は、ひび割れの進行に伴いコンクリート自体が劣化し、
構造物の安全性の低下につながる種類のひび割れがあると指摘しています。
耐久性上、性能低下の原因となるひび割れ幅とは?
建築学会やコンクリート工業会の小難しい学術的な話をしてきましたが、
有害となる可能性のひび割れ幅はいくつなのか、
具体的な数値を見てみましょう。
一般的な屋外の場合、
鉄筋腐食の影響に関しては0.3mm以下のひび割れ
であれば性能低下の原因にならないとしています。
防水性・水密性に関しては0.15mm以下のひび割れは
性能低下の原因にはならないとしています。
(コンクリート厚さ18cm以上)
ただし、ひび割れ幅が小さくても網目状に細かく広がっている箇所だとか
変色したり脆くなっている箇所は、
アルカリシリカ反応や中性化が進行していることがあります。
コンクリート内部で劣化が進行して場合は、
表面のひび割れが急激に悪化することがありますので、
できるだけ早い段階で専門家に調査してもらうことをお勧めします。
次回はひび割れ幅に応じた補修方法についてご紹介したいと思います。