国土交通省が実施したマンション大規模修繕工事に関する実態調査
国土交通省は2018年、マンション大規模修繕工事に関する実態を把握するアンケート調査を初めて実施しました。調査を実施する直近の3年間に行われた大規模修繕工事944事例に対してアンケートが行われ、大規模修繕工事の「工事内訳」「工事金額」、設計コンサルタント業務の「業務内訳」「業務量」に関する調査結果を、数量的かつ統計的に整理し、グラフ表示も取り入れて大変わかりやすく利用しやすいように工夫されています。
1.調査の目的
以下は、国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」に記載されているものを転載したものです。
「マンション大規模修繕工事の発注等において、施工会社の選定に際して、発注者たる管理組合の利益と相反する※立場に立つ設計コンサルタントの存在が指摘され、国土交通省においては、注意喚起を図るとともに相談窓口を設けて対応していますが、管理組合等の大規模修繕工事の発注等の適正な実施の参考となるよう提供するものです。」
※ 利益相反の事例
設計コンサルタントが、自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるように不適切な工作を行い、割高な工事費や、過剰な工事項目・仕様の設定等に基づく発注等を誘導するため、格安のコンサルタント料金で受託し、結果として、管理組合に経済的な損失を及ぼす事態
マンション管理組合さん等から不当に利益を得る行為を行う設計コンサルタントさんの存在は私も認識しています。
大規模修繕工事を実施されたマンション管理組合さんの協力によって得られた工事金額、設計コンサルタント業務などの指標を、これから大規模修繕工事を計画し実施する管理組合さんに活用して欲しいと思い、解説を加えながら主要な事項についてご紹介したいと思います。
2.設計コンサルタントに関する調査
国土交通省が本調査を実施した背景には、前項の調査の目的にも書いてありますように、設計コンサルタント会社の不適切な介在、不適切な業務あるいは意見形成の誘導を行うことがあげられます。
国土交通省はマンション管理組合等が事前に十分に検討した方が良い主なポイントを次のように指摘しています。
(1)工事内訳に過剰な工事項目・仕様の設定等がないか。
(2)戸あたり、床面積あたりの工事金額が割高となっていないか。
(3)設計コンサルタントの業務量(人・時間)が著しく低く抑えられていないか。特に業務量のウェートの多くを占める工事監理の業務量が低すぎないか。
特に(3)につきましては、利益相反の事例に書いている通り、設計コンサルタント会社は施工会社からバックマージンを受け取ることを前提とした低い業務量や報酬を提示してきますので、今回の調査結果と比較検討されることを推奨いたします。
3.調査の活用
本調査書の内容は、マンションの戸数規模別にデータが整理されています。マンション管理組合の皆様は、自らのマンションと同規模のマンション群のデータを参考にすることで、中央値や平均値などからの乖離を検証することが可能です。
大規模修繕工事に関する工事内訳(内容)、工事金額などを比較検証することで、適正な計画か、適正な見積金額なのか、あるいは信頼できる設計コンサルタント、建設会社なのかを推し量る貴重な資料となることでしょう。
4.本調査の主な参考となる指標
(1)大規模修繕工事の実施時期
1回目(473棟):中央値14年、平均値16.3年
2回目(249棟):中央値28年、平均値29.5年
(2)大規模修繕工事の1戸あたり工事金額
1回目(367棟):中央値98.7万円、平均値100.0万円
2回目(201棟):中央値95.6万円、平均値97.9万円
(3)大規模修繕工事の床面積1平米当たりの工事金額
1回目(473棟):中央値10,648円、平均値13,096円
2回目(249棟):中央値11,752円、平均値14,640円
(4)マンション規模と設計コンサルタント業務量の関係
31戸~50戸:中央値137.7人・時間、平均値274.7人・時間
51戸~75戸:中央値145.7人・時間、平均値362.5人・時間
マンションのグレード、特性、求める居住水準により、大きなバラツキが生じる項目もございます。ご参考になさる際は、個別の特殊要因もご勘案くださいますようお願いいたします。
5.相談窓口の活用
国土交通省は、適正な大規模修繕工事の計画・発注が為されるために、マンション管理組合等において本調査結果が有効に活用されることを期待し、併せて大規模修繕工事に関する公的な相談窓口の活用も推奨しています。
以下に主な相談窓口を記載しておきますので、どうぞご活用くださいませ。
<相談窓口>
・(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター
https://www.chord.or.jp/reform/consult.html
住まいるダイヤル:0570(016)100
※工事費用に関する「見積チェックサービス」(無料)も行っています。
・(公財)マンション管理センター
http://www.mankan.or.jp/06_consult/tel.html
建物・設備の維持管理の相談:03(3222)1519