大規模修繕工事 タイルを接着剤で張ることは出来ないのですか?
A:条件を満たせば接着剤で張ることが出来ます
大規模修繕工事のお見積りを、
ご依頼くださったオーナー様からのご質問でした。
大規模修繕工事の際の外壁タイル部分張替は、
接着剤で張ることが多くあります。
新築時に*「直貼り」で張られたタイル外壁は、
コンクリート表面の不陸が整っていること、
コンクリート躯体の含水率が8%以下の場合多いので、
有機接着剤によるタイル張り方が適しています。
*「直貼り」に関しては、以下の過去ブログをご参照ください。
建物屋内のタイル張りは
接着剤張りが一般的です
キッチンや洗面所でタイルを張る場合、
新築でも接着剤張りが一般的です。
タイルを張る下地(建材)がボード類ですので、
表面が平滑なため不陸調整の必要がありません。
加えてボード類は温度変化や湿潤乾燥による、
ボード(建材)自身の伸縮がほとんど無いので、
接着剤の層剥離が生じないことも、
接着剤張りが一般的な工法である理由です。
屋外の場合、
新築時のコンクリート躯体の
施工精度が求められます
屋外の場合、接着剤タイル張りを選択するには、
特にコンクリート躯体の不陸(波打ちや凸凹)が求められます。
コンクリート躯体の不陸が10mmを超えると、
接着剤張りを選択することは厳しくなります。
国土交通省、建築学会、接着剤メーカーは、
10mm超える波打ちや凸凹などの不陸調整は、
有機系下地調整材の使用を推奨せず、
下地モルタルで行うよう指導しています。
下地モルタルで不陸調整した場合は、
接着剤張りのメリットが損なわれ、
張付けモルタルによるタイル張りが、
安価かつ安全な張付け方法になります。
コンクリート躯体の含水率は
8%以下が必要です
コンクリートやタイル下地モルタルは水を含んでいます。
それらの含水率は8%以下でないと、
タイル用接着剤の使用を推奨していません。
押出成形セメント版や
ALC版のタイル張りには適しています
表面の不陸が平坦かつ整った既製品ですので、
版間や目地の段差を無くす下地調整を、
有機系下地調整材で行った後、
タイル接着剤を使って張りあげます。
窯業サイディング、金属サイディングでも可能です。
張付けモルタルと有機接着剤の接着力
国土交通省の「公共建築工事標準仕様書」などでは、
タイルの接着力(引張試験値)は0.4N/mm^2以上と定めています。
張付けモルタルで張ったタイルの接着力試験値は、
平均で1.29N/mm^2というスーパーゼネコンの研究データがあります。
本実験では経年によって接着力が増したという結果も得ています。
これはコンクリートはある一定期間まで経年により、
強度は増していくということと整合性が取れています。
一方、有機系接着剤の接着力試験値は、
セメダイン社の製品製品カタログに1.02N/mm^2と記載されています。
どちらも国土交通省「公共建築工事標準仕様書」と、
建築学会「建築工事標準仕様書JASS19」とが求める、
接着力0.4N/mm^2を上回っています。
タイル張り乾式工法
(1)有機系接着剤張り
タイル張付け面の表面処理をモルタルを用いずに、
有機系下地調整材で行った後、
有機系接着剤を使用して貼り付ける工法です。
現在のタイル張り方法の中で最も浮きが生じにくい工法とされ、
20年以上経過した後もタイルに浮きが生じていないという実験結果もあります。
現場でコンクリート躯体を構築する場合、
非常に高い施工精度が必要となります。
不陸が10mm程度以下の場合は、
有機下地調整材+有機接着剤を使って、
タイル張りを行うことは可能です。
が、コストを考えると現実的には難しい面があります。
(2)引っ掛け工法
タイルを引っ掛けられるように特殊加工した専用パネルを、
外壁に取り付けた後、タイルを引っ掛ける方法で、
木造住宅の外壁に用いることが多い工法です。
有機接着剤張りのタイル外壁は、
建築基準法12条の定期検査報告制度
に有利です
建築基準法12条の定期検査報告制度では、
タイル外壁は10年毎の全面打診調査が義務になっています。
しかし有機系接着剤による乾式工法の場合は、
前面打診調査の必要は無く、
引張接着試験での代替が認められています。
外部足場の設置が必要ありませんので、
定期調査報告のためのコストは大幅に削減することが可能です。
イニシャルコストとランニングコストのバランスを見て、
有機接着剤によるタイル張りを選択することになります。
高層ビルや大規模建造物などの場合は、
有機接着剤張りの方が有利ではないかと思います。
建築基準法12条定期報告に関しては、
以下の過去ブログをご参照ください。